就職・転職にあたり押さえておきたい「社会保険」の基本

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既卒成功ナビでは、仕事・キャリア・働き方についての専門家の方に寄稿してもらう「有識者コラム」を連載しています!今回は京都で社労士として活躍している、こにし社労士オフィスの小西千里先生に、就職・転職時に気をつけたい社会保険について寄稿していただきました。

小西千里先生【ご経歴】

  1. 大学卒業以後、25年間市役所に勤務
  2. 消費者相談・観光事業・市民課窓口・国勢調査・文書システム管理・農業振興・生活保護ケースワーカー・男女共同参画など、6つの部署で幅広い業務を担当
  3. 2019年4月  社会保険労務士登録(登録№26190010)、こにし社労士オフィス開設
  4. 市の人権教育啓発指導員でもある。
小西千里先生

正社員が受けられる保障は「社会保険」と呼ばれます。社会保険の対象となる人は、給与から「社会保険料」が差し引かれます。

社会保険とはどんなもので、保険料は何のためにいくら支払うのでしょうか。就職や転職を前に基本的なことを確認しておきましょう。

こにし社労士オフィス@京都・四条烏丸

社会保険は大きく4種類

「正社員が受けられる保障」という広い意味での社会保険には、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険の4つがあります。

労災保険は仕事中や通院中に起こった怪我の保障、雇用保険は職を失ったときなどの保障です。この2つをまとめて労働保険と呼ぶこともあります。

また、健康保険は仕事以外の私的な怪我や病気の保障、厚生年金保険は、老齢年金や障害年金、遺族年金などの保障です。健康保険と厚生年金保険の2つをまとめて、狭い意味での社会保険と呼ぶことがあります。

では、4つを順にみていきましょう。

労災保険

労災保険とは

1-1)労災とは?労働者災害補償保険

労災保険とは、正式には「労働者災害補償保険」といいます。業務上の事由や通勤による負傷、疾病、障害、死亡などを補償するものです。

「仕事中に社内で荷物につまずいて転倒し骨折した」という場合、治療の費用は全て労災保険から支払われます。また、「通常の経路での通勤中に転倒して骨折した」ときも治療の費用は労災保険から支払われますが、自己負担200円が必要です。

また、業務上や通勤での怪我や病気で仕事を休み、給与を受け取れない場合は労災保険から給与のおよそ6割の休業給付が受けられ、障害が残った場合は、その程度により年金が支給さるという補償もあります。

1-2)労災保険の対象になる人は?

原則として、全ての労働者に適用されます。雇われて働く人であれば、正社員、契約社員、アルバイトなどの雇用の形に関係なく対象になります。

公務員や個人経営で従業員5人未満の農業・水産業などで働いている人は例外として対象になりません。

1-3)労災保険の保険料は?誰が支払うの?

事業の種類により、給与額の1000分の2.5~1000分の88と保険料率が決まっています。

例えば、卸売・小売業は1000分の3、食料品製造業は1000分の6ですが、保険料は全額会社が負担しますので、皆さんの給与から差し引かれることはありません。

仕事が原因の怪我などしたくはありませんが、万一の場合は会社が支払う保険料で労災保険が補償をしてくれると覚えておけばよいでしょう。

雇用保険

雇用保険とは

2-1)雇用保険とは?雇用保険から支払われる手当・給付金

雇用保険って失業手当のこと?

雇用保険のうちよく知られているのは「失業手当」とか「失業保険」と呼ばれるものではないでしょうか。正しくは「失業等給付の基本手当」といいます。しかし、雇用保険には、職を離れた人向けではなく、現在、働いている人向けの給付金の制度もあります。

基本手当については、一般的には、離職の日以前の2年間に雇用保険に加入していた期間が通算で12か月以上あって、求職活動をしている人が対象となるものです。

機会があれば、ゆっくりとご説明いたしますが、支給される金額や期間は勤務年数、退職理由、もらっていた給与額により違います。特に「自己都合で退職した人は3か月間、受給できない(給付制限期間)」ことに注意してください。

育児休業給付金・介護休業給付金

雇用保険の対象となっている人が育児休業を取るときに支給される育児休業給付金というものがあります。子どもが1歳2か月(例外があります)になるまで、休業前の給与相当額の50%(育休6か月目までは67%)が支給されます。

また、介護休業中に給与相当額の67%が3か月間受け取れるという介護休業給付金の制度もあります。

教育訓練給付(一般教育訓練)

MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)や簿記検定などの資格を取るときの費用の一部が支給される制度もあります。

雇用保険の被保険者期間が1年以上あれば(受給2回目からは3年以上)、指定の教育訓練に支払った費用の2割(上限10万円)を受け取ることができます。事前にハローワークなどで指定の教育訓練実施者を確かめておきましょう。

また、より専門的な教育訓練が対象となる「専門実践教育訓練」には手厚い給付があります。

2-2)雇用保険の対象となる人は?

1週間の所定労働時間が20時間以上の人が雇用保険の対象(被保険者)です。

しかし、働く期間が31日未満の人や、季節限定で4か月以内の期間だけ働く人、従業員5人未満で個人経営の農林水産業で働く人や公務員も対象外です。

2-3)雇用保険の保険料はいくら?誰が払う?

雇用保険の保険料は、一般の事業で給与額の1000分の9などと業種ごとに率が決まっています。ただし、会社が保険料のおよそ3分の2を負担しますので、従業員本人が負担する保険料は次のとおりです。

事業の種類 雇用保険率 本人負担
一般の事業 1000分の 9 1000分の3
農林水産・清酒製造業 1000分の11 1000分の4
建設業 1000分の12 1000分の4

健康保険

健康保険とは

3-1)健康保険とは?協会けんぽ・健保組合

業務災害以外の病気や怪我(「私傷病」と呼びます)、また、出産で病院にかかったときの保険が健康保険です。病院にかかるための保険は、会社員が加入する「健康保険」、公務員などの各種「共済」、自営業者などが加入する「国民健康保険」、75歳以上の高齢者が対象となる「後期高齢者医療」と分かれています。

会社員が加入する「健康保険」の保険者(=保険料を受け取って保険給付を行う機関)には「健保組合(健康保険組合)」と「協会けんぽ(全国健康保険協会)」があります。健保組合は大企業や企業のグループが自社の社員向けに作っている組合です。それ以外の会社員が加入するのが協会けんぽです。どちらも基本的なルールは同じですが、健保組合の中には独自の追加給付をしていることころもあります。

3-2)健康保険の被保険者となれる人は?被扶養者って何?

法人の事業所や個人経営のうち決められた業種の事業所で働く正社員が加入します。

パートなど短時間労働の人も正社員の4分の3以上の時間働く人であれば加入することができます。

また、年収が130万円未満の配偶者や父母、子どもなどの家族は、健康保険の対象となる被扶養者とすることができます。

3-3)健康保険料の金額と本人負担

保険料の率は保険者(「協会けんぽ」「健保組合」)ごとに違います。また、協会けんぽの場合は都道府県ごとに決められています。

例えば、東京都の協会けんぽの保険料率は9.9%で、保険料の半額は会社が負担してくれます。

※標準報酬月額・・・保険料を計算するときには、実際の給与が63,000円以上73,000円未満なら68,000円として計算する、というような方法をとります。この「〇円として計算する」金額のことを「標準報酬月額」といいます。

説明は複雑ですが、保険料を計算するときには給与の多少の増減で保険料が変わることもなく、毎月一定の保険料が控除されますので、実際は単純に計算ができます。

後でご説明する傷病手当金や厚生年金を受け取るときの計算の基準になっています。

3-4)保険が給付される方法は?

健康保険証を使って病院を受診したとき、窓口では、医療費の3割を支払います。残りの7割は保険者が病院に支払ってくれるのです。これは会社員本人だけでなく、配偶者などの被扶養者が受診したときも同じです。

会社員本人や被扶養者が出産したときには出産育児一時金として42万円が支給されます。この一時金は分娩費用として病院に直接支払ってもらうことができますので、高額な分娩費用を用意しておかなくても安心です。

また、保険者本人が療養のため休業するときは傷病手当金を最長1年6か月、また、産前産後に休業し給与が支払われないときは出産手当金を受け取ることができます。金額はいずれも、1日につき標準報酬月額の30分の1です。

厚生年金保険

厚生年金保険とは

4-1)厚生年金保険~老後などに年金を受け取るための保険~

年金といえば、まずイメージするのが、65歳以上の人が受け取る「老齢年金」です。仕事をリタイヤした後の収入となる大切な年金です。この老齢年金には「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」があります。

老齢基礎年金は、自営業者などの国民年金の第1号被保険者、会社員など厚生年金保険に加入する第2号被保険者、第2号被保険者の配偶者である第3号被保険者のすべてが65歳以上になれば受け取れるものです。

会社員などで厚生年金保険に加入していた人は老齢基礎年金に加えて、受け取っていた給与の標準報酬月額に応じて計算された「老齢厚生年金」を上乗せして受け取ることができます。

給与が高ければ差し引かれる保険料の金額は多くなりますが、将来受け取る年金額も多くなるということです。

老後に受け取る年金のほか、被保険者が一定の障害を受けたときに支給される障害厚生年金、不幸にも被保険者が死亡した場合に一定の遺族が受け取れる遺族厚生年金があります。

障害厚生年金や遺族厚生年金も計算の基準に標準報酬月額を用いるのは同じです。

4-2)厚生年金保険の被保険者とは?

厚生年金保険に加入する人の基準は健康保険とほぼ同じです。

健康保険と異なる点は、被扶養者という考え方がないところです。ただし、厚生年金の被保険者の配偶者で年収が130万円未満であれば、国民年金の第3号被保険者となります。

第3号被保険者は年金保険料を支払わなくても国民年金に加入できるのです。

4-3)厚生年金保険料の金額は?

厚生年金の保険料は、一律で決められています。健康保険と同じように設定された標準報酬月額の1000分の183となっています。

保険料の総額は?

給与(月収・手当など含む)の額が25万円だった場合を例として、保険料を表にまとめました。額面25万円のうち3万7千円と15%もの保険料を支払うことがわかります。

月収25万円(手当含む・標準報酬月額26万円) 本人負担額
労災保険料 0円
雇用保険料(一般の事業) 750円
健康保険料(40歳未満・協会けんぽ・東京都) 12,870円
厚生年金保険料 23,790円
保険料合計 37,410円

「社会保険」が適用されるかどうかは求人票に明示されています。求人票をしっかりと確認しましょう。

また、給与からは社会保険料だけでなく所得税や住民税も控除されますので、額面給与と合わせて手取りがどれくらいになるのかも想定しておきましょう。

むやみに将来を恐れないことー社会保障と将来設計―

仕事を選ぶことはこの先の人生を選ぶことにもつながります。就職や転職にあたっては、将来どのような生活を送りたいのかと考えることもおありかと思います。保険料はもしものときや将来の安心のために支払うお金です。むやみに将来を恐れることはありません。

公的な保障も考慮して、この先の生活設計、将来設計をなさってください。

※主に民間企業の社員で40歳未満の場合を想定しています。公務員、40歳以上の方の健康保険料、60歳以上の方の各種資格等の説明は省略しておりますのでご了承ください。なお、保険料や金額は令和元年10月時点のものです。