既卒者が就活を始めるにあたり、まずおこなうのが自己分析です。自分がどんな業界に入りたいのか、どの職種を希望するのか。自分は何が得意で、何が苦手なのか。自己分析をしっかりしておかないと、ミスマッチ求人に応募したりするなど、時間と労力のロスに繋がります。自己分析が就活の8割を占めるといってもよいくらい重要な要素です。
熊本大学卒業後、印刷会社に営業職として就職。30歳の時、会社を退職し社会保険労務士の勉強を始め1年後に合格。
税理士事務所、社会保険労務士事務所での勤務を経て2015年開業登録。
人事制度構築や労務トラブル対応、そして社長のグチを聞くことが得意分野。
自己分析の必要性とは
まずは、自己分析とはなにかということや、何のためにおこなうのかを説明します。
古代中国に孫武という人がいました。現代風にいうと、軍事面で王様の相談に乗るコンサルタントといったところでしょうか。その孫武が書いたとされる「孫子」という軍事戦略や戦術についての本があります。「孫子」には現代でも通用する真理が数多く書かれています。特に有名なのが「彼を知り己を知れば百戦して危うからず」という言葉です。
相手のことも知らず、自分の得手不得手も考えずやみくもに戦っても勝てません。反対にしっかりと相手を研究し、その弱いところを攻めることができたら百回戦ってすべて勝つことができる、というのです。
自己分析をして準備を万端に
就活も、企業や、あるいは自分と同じように就活しているライバルとの戦いの連続です。学生時代に就活が上手くいかず既卒者になった人はもちろん、そもそも就活をしていなかった場合にありがちなのが「いまから就活して、ちゃんと就職できるのだろうか」という不安です。そのため自分に自信が持てず、就活しても思いどおりにいかず、さらに自信を失くすという悪循環に陥ることも少なくありません。
しかし、過度に心配する必要はないでしょう。しっかりと自己分析をして目標や自分の強み弱みを理解していれば既卒者でも、狙いどおりに就活を進めることだってできます。何事にも大切なのはしっかりと準備をすることです。
おすすめの自己分析方法
自己分析 でおすすめしたいのはSWOT分析です。SWOT分析は通常、経営戦略決定やマーケティング方法など企業の方向性を定める際によく使用されるフレームワークです。もちろん個人の人生戦略を立てる時にも利用できます。
SWOT分析は強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4要素で構成されています。それぞれの頭文字をとってSWOT(スウォット)分析と呼ばれます。分析するときは図に落とし込みます。
「強み」「弱み」は内部環境です。これに対して「機会」「脅威」は外部環境を指します。また縦軸の「強み」「機会」はプラスになる要因で、「弱み」「脅威」はマイナス要因です。
内部環境は、自分の能力や持っている資格、学歴や性格など自分自身のことを指します。いっぽう外部環境は就職市場の動向や景気、希望する業界を取り巻く状況や就活のライバルです。
何をアピールするか明確にする
プラスになる要因は履歴書作成や面接時にしっかりアピールできるポイントで、マイナス要因は克服する必要があるとか、思い切って切り捨てる必要のあることだと覚えておくとよいでしょう。
SWOT分析の目的は、自分自身のことをしっかりと分析し、さらに外部環境に左右されない状態を作ることです。自分が勝負する場所や、どこに力を割くべきか、ということや何を自分の一番のアピールポイントにすればいいか、といったことを決めることで勝つ確率を高めるのが狙いです。就活における「勝ち」は、言うまでもなく「自分が希望する仕事に、希望する条件で入社」することです。
SWOT分析のおこない方は?
就活の際の自己分析としてSWOT分析をどのようにおこなえばよいのでしょうか。それぞれの要素ごとにポイントをみていきましょう。
強みを分析する
たとえば自動車メーカーが新車を売りに出すときのことを思い浮かべてください。燃費が他車に比べて良いとかデザインが優れている、あるいは価格が安いなどアピールポイントが強調されていると思います。
これを個人に置き換えこれまでの人生を振り返り、達成したことやこれからの仕事で発揮することが期待できる能力を洗い出します。学生時代にリーダーシップを発揮した経験や、パソコン操作が得意、など自分のアピールポイントを書き出しましょう。
弱みを分析する
既卒者の場合、就活時に気になるのは就職経験がないことではないでしょうか。卒業後なにをしていたのかを企業は気にするのではないか、と心配する気持ちも理解できます。そのため弱みを分析することにネガティブなイメージがあり、苦手な人もいます。しかし弱みは放っておいたら勝手に消えていた、ということはありません。大変かもしれませんが、きちんと自分の弱みと向き合うことはとても大切です。
自己分析は弱みをさらけ出すとか、傷をえぐるためにおこなうのではありません。弱みを克服する、ダメージを最小限にするためにおこなうのだということを認識すれば気持ちも楽になります。自己分析で重要なことは自分自身を客観的に見ることです。
機会を分析する
自分が希望する業界や職種が人手不足であれば、就活を成功させるチャンスです。逆に人気企業や競争率の高い職種だと就活のハードルが上がります。
たとえば大卒2年目だった場合、新卒採用枠で応募できることがあります。もちろん中途採用枠での応募もできます。どちらの方が採用される可能性が高いのかを検討するのも機会分析の一つです。
脅威を分析する
脅威でわかりやすいのは就活のライバルですね。企業への応募者が自分一人であれば、少なくとも面接までは辿り着くことができるでしょう。しかし応募者が多数であれば書類選考にかけられます。
書類選考をクリアしても試験や面接ではライバルよりも好成績を残す必要があります。人気企業や職種はそれだけライバルも多くなります。そうした企業への応募は避けて、より確率の高い企業への対策に重点を置くことも就活の戦略の一つです。
SWOT分析の活用方法
SWOTによる自己分析は、あくまで行動に移すための準備です。ここからは具体的な就活例をみていきましょう。
25歳、大卒3年目、経済学部卒業。正社員としての就職歴無し、簿記3級取得。性格はやや内向的で人とコミュニケーションをとるのが少し苦手。数字に強く、細かい作業をコツコツおこなうのは苦にならない。地元の大学を卒業後、実家暮らしのままアルバイト生活。東京の商社を中心に事務職を希望するも、思うようにいかなかった。
Tさんの自己分析の結果、強みは数字に強く、細かい作業ができるため経理・総務に職種を絞りました。強みを補強するため、簿記2級取得のための勉強も並行しておこなうことにしました。いっぽうで弱みとして内向的な性格が上げられました。経理や総務といった事務職は営業などに比べてコミュニケーション能力が低くてもいいように思われがちですが、実際は社内連絡を円滑におこなうためコミュニケーション能力やある程度の押しの強さが求められます。弱みを認識するだけではなく、どうすれば弱みを減らせるかを検討する必要があります。
企業選びも重要です。東京の人気企業ではライバルも多いので、地元の企業を中心に考えました。企業の成長度合いや業界の将来性を考え、地元を中心に多店舗展開するフィットネスジムに経理担当として入社することができました。比較的若い企業ということもあり、経理部は部長を筆頭にTさんを含め3人体制です。求人では未経験歓迎ということもあり、これからしっかりと実務経験を積むことを期待されています。
このように自己分析を適切におこなうことで、一番アピールしたい点を強調でき、自分が一番有利に勝負できるところを選ぶことができるようになります。
目標を明確にする
一番失敗する可能性がたかいのは、なんとなく就活することです。既卒者は新卒や社会人経験がある人に比べて就活に気後れや焦りがあるかもしれません。空白期間があることや、就職未経験で選択肢が限られると思いがちです。
しかし人事担当者は意外と未経験者を問題視しません。むしろ仕事に対し変な色や偏見がついてない未経験者を重宝する人もいます。
焦って中途半端な企業に就職してもすぐに辞めてしまっては意味がありません。反対に自分の現状に比べて高すぎる目標を持つのも考え物です。
どんな仕事がしたいのか、将来どのようになりたいかのイメージを持つことが大切です。
客観的な意見を聞く
自己分析の結果について、家族や友人に意見を聞いてみるのも良いでしょう。特に就活の経験が浅い既卒者は、自己評価と他者からの評価が大きく外れている場合は戦略を見直したほうがいいでしょう。
自分のことは自分が一番よく分かっている、と意地を張るよりも柔軟に他者の意見に耳を傾け、必要に応じて修正することは全ての仕事に通じる基本です。
まとめ
既卒者におすすめしたい自己分析のやり方についてご紹介してきました。
最後に一番大切なことをお伝えします。自己分析で立てた戦略は必ず実行に移すことです。もし失敗しても原因を分析し、戦略を練り直せばいいだけです。
自己分析は就活のためのとても重要な準備ですが、行動しなければただの計画書、紙切れに過ぎません。難しく考えすぎずに、できるところから手をつけていくこと、それこそ既卒者が就活を成功させるためのポイントだといえるでしょう。
監修者プロフィール
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既卒成功ナビでは、仕事・キャリア・働き方についての専門家の方に寄稿してもらう「有識者コラム」を連載しています!今回は福岡県で社労士として活躍している、ちとせ労務管理事務所の淵上洋平先生に、既卒生の自己分析についてのノウハウを寄稿していただきました!