既卒生の就活|健全な働き方を目指すために

既卒成功ナビでは、仕事・キャリア・働き方についての専門家の方に寄稿してもらう「有識者コラム」を連載しています!今回は社会保険労務士・健康経営アドバイザーの玉上信明さんに、既卒の方に向けた健全な働き方というテーマで記事寄稿をしていただきました!

【玉上信明さん ご経歴】
元三井住友信託銀行勤務。法務・コンプライアンス関係の企画・研修に長く従事。日本公認不正検査士協会にも加入。社会保険労務士として開業し執筆活者やセミナー活動を中心に行う。

玉上信明さんブログ

「新卒時の就活がうまくいかず、それから2年3年経ってしまった。いまから就活しても新卒より圧倒的に不利になる。」

「既卒成功ナビ」では、そんな方への様々な情報が提供されています。但し、首尾よく就職に成功しても、あなたのキャリアの新しい始まりに過ぎません。新しいキャリアを成功に導くためには、その会社の実態とあなた自身の働き方を冷静に見つめなおす必要があります。

一方では、国をあげて若者の就職を支援する体制ができています。国家の成長戦略として、働く人を大切にすることが生産性向上につながることが明確に示され、強力な施策が取られています。

本稿では、1章2章では就活の心構えや会社選びの注意点について、3章では厚生労働省が若者雇用を促進しているサイトをご紹介、4章5章では健全な働き方を目指す国家戦略としての「働き方改革」「健康経営」の概要とこれに取り組む企業の例をご紹介します。「健全な働き方」に労使が熱心に取り組む事例として、貴重なヒントが得られるでしょう。あなたにふさわしい会社を見つけられるかもしれません。

最後に6章では実際に働きだしてから何か困ったときなどの公的な相談窓口をご紹介します。少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

1:既卒者の就活に余計な心配は無用!

既卒者の就活は新卒者と比べて本当に不利でしょうか。経団連「2018 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」を見てみましょう。

選考で重視されたのは「コミュニケーション力」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」等です。その人の意欲や態度に関わる項目です。専門性、語学力、学業成績などは、実際には殆んど重視されていないのです。

既卒のあなたは、卒業後今まで何をされてきたでしょうか。非正規、アルバイトなどで働いていても、このような意欲や態度は培われてきたでしょう。意に沿わない時を過ごすうちに、むしろしっかり育んでこられたかもしれません。就活の大きな武器になります。「既卒成功ナビ」の諸先輩のメッセージをご覧いただければよくお分かりなるはずです。

2: 本当に健全な働き方のできる会社を目指すための事前準備

就活だけに目を奪われないようしてください。あなたが働きたいと思う会社が本当にそれにふさわしいのか、人事労務管理の観点から注意すべきポイントをご紹介します。

(1)自分自身を棚卸ししてみよう。

まずご自身を棚卸ししてみてください。ご自身の能力・経験・将来への希望です。そして結婚などをはじめとするライフイベントです。ご自身やご家族の状況によっては遠隔地の勤務が難しいなどの問題もあるでしょう。これらも致命的なハンディキャッキャップではありません。テレワークや地域限定正社員など多様な働き方が普及してきています。

(2)入社前にこの点をチェックしてみよう。

会社の中には働き方に問題のあるところも少なくありません。

厚生労働省や東京都などで、労働法制などのポイントを若い人向けに解説した資料が多数用意されています。以下は一例です。これらは就職の後でも役に立つでしょう。

①東京都労働局(厚生労働省の地方機関です)

これだけはおさえておきたい労働法のポイント

労働者として知っておくべき最低限の知識がコンパクトにまとめられています。

たとえば、労働契約締結のときに「労働条件明示の原則」に従って労働条件が示されているか、年次有給休暇や労働時間の原則が守られているか、妊娠出産育児についての手厚い保護がちゃんと守られているか、などです。

②厚生労働省

「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」

就職を控えた学生や若者向けのハンドブックとして作成されたものです。コンパクトな中に盛り沢山の内容です。

③東京都産業労働局(TOKYO はたらくネット)

これだけは知っておきたい働くときの知識 高校生版

高校生向けといっても、高校生以外でも役に立つ内容が充実しています。内容の一例です。

4.会社の選び方:「危ない求人広告」

6.公正な採用選考:職業安定法の「求職者等の個人情報の取扱い」も紹介されています。まさにリクナビ問題で大きくクローズアップされた問題です。

④東京都産業労働局(TOKYO はたらくネット)

ポケット労働法2018

労働法全般について働く人の立場でまとめられています。項目ごとに読むこともダウンロードすることも可能です。例えば次の項目は一読された方が良いでしょう。

第2章就職するときに:労働契約、採用内定・試用期間等の解説

3:厚生労働省の「若者雇用促進総合サイト」

厚生労働省が若い求職者を支援しているサイトが「若者雇用促進総合サイト」です。

新卒者や既卒者の就職を支援するハローワークの紹介や、若者の採用を積極的に行う企業の情報を検索できるデータベースなど沢山の内容です(サイトの使い方はこちら)。

(1)若者のための専門のハローワーク

「新卒応援ハローワーク」は、新卒者だけでなく、卒業後おおむね3年以内の方の就職を支援する専門のハローワークです。また「わかものハローワーク」は、正社員での就職を目指す若年者(概ね44歳以下)を支援する専門のハローワークです。いずれもマンツーマンの個別支援が行われています。

(2)企業検索

若者の採用のための雇用情報を提供している企業を検索できます。採用・定着状況、所定外労働時間、有休や育児休業取得などの情報が盛り込まれ、従業員数、業種(産業)、職種、地域などで自由に検索できます。若い人が働きやすいことを認定する制度の情報*も含まれています。

(参考)認定制度の概要

「ユースエール認定企業」(若者の採用・育成に積極的、雇用管理の状況も優良な中小企業)「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク」(「子育てサポート企業」として認定)「えるぼし・プラチナえるぼし」(女性の活躍推進の優良な会社)

(3)都道府県ごとの魅力的な企業のご紹介

地域限定正社員制度の導入企業や、地域で働き方改革に取り組んでいる企業などが紹介されています。地域限定正社員については、趣旨の解説や事例集も紹介されています。

新規学卒者等の募集・採用にあたり、「地域限定正社員制度」の導入を検討しませんか?

4:「働き方改革」―健全な働き方を目指す会社(その1)

「働き方改革」は国を挙げての重要課題です。熱心に取り組む企業の中にあなたの将来を託すべき企業があるかもしれません。また企業の取り組みを知ることが、あなたの就活や新しい職場での働き方に貴重なヒントになるでしょう。

(1)働き方改革の意義とポイント

働き方改革は「日本経済再生に向けた最大のチャレンジ」です。働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土も含めて変え、働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにする、というものです。

【働き方改革のポイント】(働き方改革の実現(首相官邸ホームページ)「働き方改革実行計画概要」より抜粋)

①長時間労働の是正

長時間労働は、健康を損ないます。仕事と家庭生活との両立を妨げ、少子化をもたらし、女性のキャリア形成も男性の家庭参加も阻んでいます。長時間労働を自慢する風潮を変えることが、ワーク・ライフ・バランス改善や、女性・高齢者の就業・労働参加率の向上に結びつきます。経営者は、働き方に関心を持ち単位時間(マンアワー)当たりの労働生産性向上につなげていくべきです。

②正規、非正規の不合理な処遇の差の是正

正規と非正規の理由なき格差を埋めることが、労働者の働く意欲を高め、労働生産性の向上につながります。

③単線型の日本のキャリアパスを変える。

転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立することで、自分に合った働き方を選択し自らキャリアを設計し、付加価値の高い産業への転職・再就職を通じて国全体の生産性の向上にも寄与します。

働き方改革に熱心に取り組む会社

働き方改革に熱心に取り組む企業が紹介されています。代表的なものをご紹介します。

企業の働き方改革取組事例が460社以上も紹介されています。大企業から中小企業まで規模も業種も様々です。都道府県、業種、規模などで絞込検索できます。

各社ごとの取組概要もが掲載されています。一例だけご紹介します。

「トヨタファイナンス(愛知県・金融業・2070名)

  • テレワークを実施(「社内モバイルワーク」、「社外モバイルワーク」、「在宅勤務」)
  • 大半の実施者に好評:ペーパーレス会議で、準備時間の削減、意思決定・行動のスピードアップ等。出張時の移動など隙間時間利用で情報閲覧、社内手続きの申請・承認など。「在宅勤務」では、自宅で自らの業務計画に基づく時間やアウトプットの効率化、生産性向上や時間管理意識向上が見られた。
  • 管理者の意識改革にも寄与:仕事の付与・確認、メンバーの仕事の状況・能力の把握、日常のコミュニケーションなどのマネジメントの重要さを認識。

ライフ・ワーク・バランス認定企業が紹介されています。以下が取り組みの一例です。

  • フレックスタイム制やテレワーク制度導入で働き方を柔軟化
  • 育児中の女性従業員からの声を受け、子連れ可能なコワーキングスペースを設置
  • 従業員の自己啓発や生活を支援する手当を支給(書籍手当、母の日手当など)

5:「健康経営」―健全な働き方を目指す会社(その2)

(1)「健康経営」の意義とポイント

健康経営は、経済産業省が国家の成長戦略として積極的に取り組んでいる課題です。

健康経営は「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法」です。従業員等の健康増進や労働衛生などへの取組みは単なるコストではありません。従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、企業の業績向上や組織としての価値向上へとつながることが期待されます。

(2)健康経営に取り組む企業の事例

健康経営銘柄

東京証券取引所の上場会社の中から「健康経営」に優れた企業が選定されます。原則として1業種1社が選定されます。詳細は次のレポートを参照ください。

健康経営銘柄2019選定企業紹介レポート(PDF形式:24,397KB)

②健康経営優良法人

健康経営に取り組む企業のうちから、大規模法人、中小規模法人別に選定されます。

2019年度の認定企業の一覧は次の通りです。

健康経営優良法人2019(大規模法人部門)認定法人一覧(817法人)

健康経営優良法人2019(中小規模法人部門)認定法人一覧(2501法人)

健康経営アワード2019

取組事例の一端を表彰式(健康経営アワード2019)の発表内容からご紹介します。

  • 大規模法人部門「コニカミノルタ株式会社」:「従業員の心と身体の健康こそが財産」と宣言。健康診断結果分析を産業医等と連携、健康チェックに取組む。産業保健スタッフによる徹底した個別指導で「ハイリスク者(フィジカル)」大幅減。重症化予防による入院費の減少。ストレスチェック活用でメンタル休務者数の減少等の成果。
  • 中小規模法人部門「アクロクエストテクノロジー株式会社」(従業員80名):①全社禁煙 ② サラダバー ③ 社内販売お菓子 ④ 体操タイム ⑤ 卓球・ダーツ ⑥ 帰ろう8ボード等の日々の取組みで健康増進、残業も減少。

6:就職してから困ったときの相談窓口等

めでたく希望の会社に入社できても、労働条件その他で困った問題に直面するかもしれません。万一の相談窓口をまとめました。

一流企業でも管理監督者あるいは人事部の担当者ですら、人事労務管理の知識不足などから間違った対応する事態が少なからず見られます。

官公庁などでは働く人のための万一の相談窓口を充実させています。必要に応じてご活用いただければと存じます。

(1)全般について―都道府県労働局「総合労働相談コーナー」―

労働局では、職場のトラブルに関するご相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っています。解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど労働問題全般を対象としています。性的指向・性自認関連の問題も対象としています。学生、就活生からの相談も受けてもらえます。

専門の相談員が面談もしくは電話で対応してもらえます。予約不要、利用は無料です。

労働者がこれらの制度を利用したときに、これを理由に会社主が労働者に不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。

(2)労働基準監督署

労働基準監督署は労働基準法関係の監督官庁であり、すべての労働相談に応じているわけではありません。長時間労働、有給、賃金不払い、労働災害などなら労働基準監督署がふさわしいかもしれませんが、まず始めは①総合労働相談コーナーが適切でしょう。

(3)育児介護等との両立支援について

都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)の雇用環境・均等部が窓口です。

よくわからなければ①総合労働相談コーナーにまず相談することをお勧めします。

フジワラ

日本の働き方は多種多様で、中には不透明な部分も多く見られます。制度・相談機関などで活用できるものはして、満足のいく働き方を目指しましょう!